ネットワーク・ワークショップについて

 

網をつくる技術の普及活動

 網をつくる技法は、たくさんあります。その中から、私が1999年にラオス南部で、そして2014年に福島県いわき市で出会った結び方で網をつくる技法を「フリースタイルあばりあみ」と名付けました。この結び方は、日本ではガラス製の浮き玉を包み込むのに使われていましたが、プラスチック製の浮き玉の登場とともにあまり見かけなくなりました。結び目の位置が動くので、使用状態に合わせて網の形を最適化する網を制作できることが、この結び方の大きな特徴です。このまま忘れ去られることは私達人類にとっての損失であると考え、ライフワークとして、自分自身の作品制作に用いるだけでなく、この技法の普及活動を進めています。活動を通じて多くの方に会い、網について色々なことを学ぶうちに、人は網を手でつくる技術を手放してはいけない、との思いをますます強くしています。

 

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デザイン・クリエイティブセンター神戸で開催された「オープンKIITO」というイベントで来場者の参加を呼びかけている様子。2019

 

 人や組織の共生的なつながりを「ネットワーク」と表わします。「網羅」は広辞苑によると、残らず納めて入れること、もらすことなくすべてに及ぶことを意味するそうです。今日、コンピューターを介して相互接続される仮想空間、インターネットが隆盛を誇っています。人はひとりぼっちで生存することが難しい生物なので、大勢の人びとが集まり、関係を築いて社会を構成し、役割を分担しながら生きています。古くから使われている言葉だけでなく、近年新しく出てきたシステムの名前にもネットや網といった言葉が含まれているのは、もともとネットや網が、人の生存とも強く結びついた道具だからではないでしょうか。

 網は昔から人の生活の役に立ち、作る人や補修できる人が身近に存在していました。現在ではそのような技術を持つ人は大変少なくなり、一般には、網は工場で大量に生産された既製の道具という認識に変化してしまいました。近年、社会が大きく変化する中で、網と人との関わりも変化を続けています。

 

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米国ワシントン州のエバレット・カレッジにて、ワークショップ参加者と一緒に制作した網。2018

 

網のもつ多様な魅力

 網には多様な魅力があります。有用な道具としての機能だけでなく、モノとしては視覚にも大きな効果をもたらします。網は、網そのものだけでなくその内側にあるものも同時に見せることができます。背景とも共存します。結び目の反復パターンから視覚的なリズムを感じることができます。

 一般的な手づくりの網は、長い紐からつくられています。紐こそ、人が人となった頃からずっと傍にあるものでしょう。紐を活用するためには、手を思い通りに操る能力が不可欠です。最新の技術は、基本の技術の積み重ねの上に展開します。紐で網がつくれるようになった人は、手で細かい作業をすることで脳も活性化し、結果として人生の色々な局面で複数の可能性を見いだすことができるようになるのだと思います。

 

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静岡県浜松市の「たけし文化センター連尺町」、特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツのスタッフと一緒に制作した網。2018

 

 

交流を生むワークショップ

 多くの参加者がつくる小さな網をつなげて一枚の網をつくるワークショップに、幅広い可能性を感じています。2016年にはじめて福島県いわき市にあった楢葉町仮設住宅でのNPO法人「みんなの工房」の活動として取り組んだ後(福島県いわき市での活動をごらんください)、米国ワシントン州のエバレット・カレッジ、静岡県浜松市のたけし文化センター連尺町、デザイン・クリエイティブセンター神戸で開催された「オープンKIITO」というイベント、名古屋市にある南山大学の学生団体「RePurposed富洲原(リパーパスドとみすはら)」でワークショップをおこないました。これらのワークショップでは、完成品として独特な表情を持つ網ができるだけでなく、制作過程でも参加者同士のコミュニケーションが活性化される「ネットワーク」空間が出現するという副産物もついてきます。網をつくる技法を伝えあい、できあがった小さな網を結びあわせる過程で、その場にいる人々による交流が起こります。そして、小さな網を結びあわせて完成した大きな網は、ワークショップの時にあちらこちらで起こっていた小さな交流の積み重ねを象徴します。

 

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名古屋市にある南山大学の学生団体RePurposed富洲原(リパーパスドとみすはら)でのワークショップの様子。四日市市の吉田製網所(有)の工場に残っていた紐を用いて、34名が網の制作に参加しました。2019

 

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RePurposed富洲原(リパーパスドとみすはら)」のワークショップ、完成した網と完成時にいたメンバー。網のデザインは著者。2019

 

 今日、仮想空間でのネットワーク形成が簡単におこなえるようになりましたが、その反面、多様な背景を持つ人同士が、対面して対等な条件のもと、健全な関係を築く経験ができる場が少なくなっています。このワークショップは、準備する材料や道具がシンプルで、年齢は小学生からシニアまで取り組めます。ジェンダーによって関心の度合いに差が出にくく、性別で得手不得手の傾向が分かれるようなこともありません。私自身の社会貢献の手段として、自分自身の作家活動と並行して色々な場所や機会でワークショップをおこなっています。網をつくるワークショップが、人同士の関係を健やかに保つ一助になればと願っています。 

(染織情報α20203月掲載)